新たな企業評価軸として注目されるESG
「コンプライアンスチェックの基礎知識」でご紹介したコンプライアンスチェックの3つの観点のうち、本ページではESGについてご説明いたします。
ESGとは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」という3つの単語の頭文字を組み合わせた言葉です。このESGという考え方は2006年、顕在化していた環境問題や社会問題、企業統治問題等の各種課題を改善し日々の経済活動を持続可能なものとする目的で国連が機関投資家向けに提唱した責任投資原則(Principles for Responsible Investment:PRI)に端を発しています。具体的には機関投資家に対して、投資意思決定において財務情報だけではなく、非財務情報であるESG要因も考慮することを求め、投資の面からESGの各種課題の改善を目指すというものです。現在、PRIに賛同し署名した機関投資家は世界中に5,300以上おり、これら機関投資家の運用資産額は121兆ドルにもなります。
こうして機関投資家から始まったESGの考え方は投資対象である企業の事業活動での取り組みにも広がりつつあります。特に調達部門はESGに関連するサプライチェーンリスクや法規制リスク、風評リスクといった様々なリスクに対応し、安定調達による企業の持続的な発展を支える必要性があることから関心が高く、取り組みが非常に進んでいます。また、ESGはサプライチェーン全体を視野に入れているため、たとえ小・中規模の企業であってもサプライチェーンの一部である以上、ESGへの積極的な取り組みが求められています。
ただ一方で、ESG関連リスクはE、S、Gそれぞれに多種多様なリスクが存在しており、多くの企業では各リスクの特定や評価に苦慮しているのが実情です。そこで、ここではESGに対する企業の現状と、TSRが提供するESG関連のソリューションをご紹介いたします。
企業におけるESGへの認識
まずは各企業がESGについてどのように考えているか、Dun&Bradstreet(D&B)の調査結果をご紹介いたします。
ESGの重要性とサプライヤー評価への利用
D&Bによると、調査対象の90%が今後3年間の戦略においてESGデータが非常に重要であると回答しています。また、すでに30%の企業でサプライヤーの評価にESGを利用していると回答しました。このことから、多くの企業でESGの重要性が増してきており、すでにサプライヤーの評価などにESGを考慮する動きが出ている状況です。
では、実際にESGへの取り組みと企業活動にどのような関係性があるのか、投資面とサプライヤー管理面の2点についてD&Bのデータをご紹介いたします。
投資の意思決定におけるESGの重要性
まずは投資面におけるESGの重要性をご認識いただくために、ESGの評価と企業の売上に相関関係があることを示す興味深いデータをご紹介いたします。下記図内にある「ESG Ranking」とは、ESGを構成する環境、社会、企業統治という3つの要素を元にD&Bがスコア化したもので、当該企業のESGに対する取り組み度合いを示す指標です。このESG Rankingのスコアのレンジ別の売上成長率をご覧ください。
ESG Rankingのスコアレンジ別売上成長率【未上場企業】
ESG Rankingのスコアレンジ別売上成長率【上場企業】
D&B「ESG Methodology Whitepaper, 2023」より、上場企業3,000社、未上場企業300,000社の過去5年間の売上推移を集計。
ご覧のとおり、ESG Rankingが高い企業、つまりESGへの対応度合いが高い企業ほど売上成長率も高いということがわかります。未上場企業においてはESG Rankingが高い企業群の売上成長率が30%に対し、低い企業群は14%と成長率が半分以下になっています。さらに上場企業になるとESG Rankingが低い企業群の売上成長率は-8%、つまり売上が減少してしまっているということがわかります。冒頭でPRIが機関投資家の投資意思決定においてESG要因も考慮することを求めていると説明しましたが、このように実際にESGに対する取り組み度合いが投資対象の業績とも強く関連していることがおわかりいただけたかと思います。
サプライヤーリスク管理におけるESGの重要性
次にサプライヤー管理面におけるESGの重要性をご認識いただくために、ESGの評価と支払遅延の発生割合にも相関関係があることを示すデータをご紹介いたします。下記の図は、ESG Rankingのスコアレンジ別に支払遅延が発生した割合を表しています。
ESG Rankingスコアレンジ別支払遅延割合
D&B「ESG Methodology Whitepaper, 2023」より、民間企業200,000社の支払振りを集計。
ESG Rankingが低い企業群は、高い企業群に比べ15倍も支払遅延を起こす割合が高くなっています。このように、ESGはサプライヤーの評価においても決して無視できないということがおわかりいただけたと思います。また、支払遅延以外でもESG Rankingが低い企業群は人道や法令順守などの面においてもリスクが高くなっており、それらの企業と取引をおこなっていることで自社も風評被害を受けたり、規制などにより調達が断絶されるなど、様々なリスクに遭う可能性が高くなると言えます。
ESG対応の課題
ESGへの取り組み度合いが、企業の成長率把握やサプライヤー管理において重要であるということはおわかりいただけたかと思いますが、実際に自社の取引先やサプライチェーンをESG面で評価するには、いくつかの課題があります。
①ESGデータの品質と信頼性の欠如
自己申告データ以外のESGに関する情報を入手し蓄積することは難しく、正確性や適時性など多くの課題が存在しています。
②ESGデータ収集・分析システムの欠如
収集した情報を一元管理し、一貫性を持った客観的な観点から分析し有用な洞察を引き出す必要があるという点についても大きな課題があります。
これらの課題に対し、先ほどご紹介したD&Bの「ESG Ranking」を用いることで正確かつ一貫性のあるESG評価を実現し、より精度の高い取引先の評価やサプライヤー管理をおこなえるようになります。
ESG Rankingとは
ESG Rankingとは、D&Bが環境、社会、企業統治の3つの観点で当該企業を評価し、それらの総合評価として提供している指標です。評価には、世界最大級5億件超の企業情報を保有するD&B独自の情報、ニュース記事、公知情報、企業のWebサイト、IR、各種認証など、あらゆるデータソースを駆使しており、高い信頼性を有しています。
ESG Rankingは、サプライヤーの一元管理を可能にするオンラインサービスのD&B Risk Analytics - サプライヤー・インテリジェンス、取引先の包括的なコンプライアンスリスク管理を可能にするオンラインサービスのD&B Risk Analytics - コンプライアンス・インテリジェンス、D&Bが保有する企業情報をカスタマイズしてご提供するデータブロックで取得することができます。ESGについてご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。
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