旭川信用金庫・武田智明理事長インタビュー ~「地域の仕事と雇用を守る」取り組みに手間ひま惜しまず~ 2024/05/27
―旭川信用金庫の特色について
日露戦争後の長期にわたる不況と大凶作による窮状を打開するため、1914年4月11日に「有限責任旭川信用組合」として設立された。設立当時の組合員は66人、事務所は旭川区役所内(当時は区制)に置かれた。1957年4月に道内信金初の本部制度を導入し、事務合理化、教育訓練などの内部体制を整え、経営の近代化に取り組んだ。
1966年12月には東北・北海道の信用金庫で初めて日本銀行との当座勘定取引を始めたのに続き、1977年3月には道内信金で初めて店外CD(現金自動支払機)を設置した。さらに、2007年6月にはATM(現金自動預払機)の時間外手数料の完全無料化を実施するなど、いつの時代もお客さま本位の経営を追求し、地域にとってなくてはならない金融機関を目指し、2024年4月に地域のお客さまの絶大なるご支援により創立110周年を迎えた。
営業エリアは旭川市・札幌市・富良野市を含む18市16町1村とし、旭川市内25店舗、旭川市近郊5店舗、札幌市5店舗、富良野市および近郊5店舗の合計40店舗(2023年12月末時点)で営業展開している。
主な営業地盤である旭川市は、日露戦争で出征した「第七師団」が配置された軍都として商業活動が活発になった。旭川は「川のまち」とも言われ、大雪山連峰からの豊富な水を利用した酒造業が盛んだ。また、鉄道の要衝でもある。豊富で良質な森林資源に恵まれていたため木材業が栄え、良質な道産材を原材料にした家具製材が集積し、日本の五大家具産地にまで成長した。
少子化や住環境の変化などから生活様式が変わり、最盛期を支えた重厚な箱物家具の需要は衰退したが、今は国際的にも評価されるデザイン性と高い技術力により、世界も認める高品質な家具づくりが行われている。
当金庫の預金量は9,820億円、貸出金量は3,350億円、役職員数は374名(2023年3月末時点)だ。役職員一人当たりの預金量は23.91億円で、道内の信金の平均(18.45億円)を上回り、経費率は0.57%で道内の信金の平均(0.67%)を下回り、高い生産性が特色の1つと言える。
旭川信用金庫・武田智明理事長
旭川市内における預金シェア4割、富良野地区における預金シェアは5割を超え、地域の皆さまから信頼を頂いていると感じている。また、札幌地区の5店舗は当金庫の貸出金残高の約2割を支えている。 札幌地区での重要な役割の一つは、札幌でビジネスを始めたい、販路を拡大したいという旭川、富良野地区のお客さまに、タイムリーな情報をつなぐことであり、そうしたお客さまへの情報提供を果たしていく。
―大切にしていることは
当金庫は「明日をひらく」を経営理念に掲げており、「お客さまの幸せを実現し地元を元気にする」ためにお客さまの視点に立って考え、行動する「お客さま本位」を徹底し、役職員一丸となって地域の課題解決に取り組んでいる。
また、持続可能な地域社会の実現に貢献するため、「サスティナビリティ基本方針」を策定し、方針に掲げる「あるべき姿」と「なすべき戦略」に基づき、経営の重要課題としてサスティナビリティを推進している。
―旭川市内、旭川市近郊、富良野市および近郊の経済状況と課題について
旭川市内の景況は概ね堅調だが、昨年(2023年)7月以降、新型コロナ関連融資の返済開始に伴い、小規模事業者などの経営破たんが増加している。当面、物価高と人手不足による人件費高騰が続くと考えられ、経営基盤の脆弱な事業者の動向が気になるが、地域の金融機関としてしっかりと支えていく。
旭川市近郊では、それぞれの自治体が地域の特長を踏まえ、地域おこし協力隊や地域資源などを活かして、過疎化対策などに取り組んでいる。特に、子育て支援や就労支援などを含む移住対策に積極的に取り組み、人口増加につなげている自治体がある。そうした自治体を「つなぎ」、圏域全体の地域振興をお手伝いしたいと考えている。
富良野地区の主要産業である農業は、昨夏の猛暑の影響を受けた。しかし、観光が回復し、台湾、韓国、香港などからのインバウンドが好調だ。富良野スキー場が近くにある北の峰地区では、外資による開発が続いている。
―旭川地区の経済トピックスについて
ジェットスター航空(LCC)の旭川-成田間の定期就航により、将来的には、オーストラリア→成田、成田→旭川経由によるオーストラリアからのインバウンドに期待している。
昨年11月には、旭川市の新庁舎がオープンした。旭川市は「ユネスコ創造都市ネットワーク」にデザイン分野で加盟が認定された。世界で43都市あるが、日本では神戸市、名古屋市に次ぐ3都市目だ。そして今年(2024年)、「ユネスコ創造都市ネットワーク」のデザイン都市会議が旭川市で開催されることが決定した。旭川デザインセンターを中心とした旭川家具の認知度向上など当地域への経済効果が期待できる。2025年5月には、4年に1度開催されるお菓子の祭典「第28回 全国菓子大博覧会」が旭川で開催される。
こうしたイベントを通じ、旭川の良さが国内はもとより世界中に広く認知されることを期待している。当金庫としても、地元の元気のために、出来る限りのお手伝いをしたい。
現在、旭川駅前ではタワーマンションの建設が進行している。また、市内豊岡地区では、高等学校の移転跡地に大規模商業施設の建設が計画されており、新たな賑わいが生まれることを期待している。当金庫では、まちづくりに関心の高い高校生、大学生を募って「旭川しんきんユースチーム」を結成し、イベント企画、課題解決活動、金融教育などを通じて、まちなかの賑わい創出にも取り組んでいる。昨年10回目を迎えた道北7金庫とJR北海道旭川支社共催の「駅マルシェ」では、出展者さまのサポートやステージイベントの企画、7月に買物公園で開催した「まちなか賑わいストリート」では、チャレンジショップやステージイベントの企画、進行などで地域に関わっている。
―アフターコロナへの認識と旭川信金の取り組みについて
旭川、富良野地区の魅力の1つは「食と観光」だが、観光業と飲食業は新型コロナ感染拡大の影響を最も受けた業種だ。昨年5月の新型コロナ感染症の5類移行に伴い、行動制限が緩和され、まちの中心部に人流が戻った。観光、飲食関連は回復の兆しにあり、まちは息を吹き返しつつある。インバウンドも堅調で、旭川市の入込客数はコロナ禍以降の実績を大きく上回り、2019年に近い状況で推移している。ホテルなどの宿泊施設は人手不足が著しく、ハイシーズンにおける満室対応が困難となり、最大で8割程度の稼動だった施設もある。
昨年12月の、オーストラリアのカンタス航空系LCCジェットスター航空の旭川-成田間定期就航により、今後は、学生など若年層の入込客が期待できる。
当金庫では、お客さまと地域に対して、「課題解決型営業の追求」の基本方針のもと、事業者さまの抱える課題解決に向けた伴走支援、個人のお客さまのくらしに関わる課題の解決、地域同士を「つなぐ」活動に、中心となって取り組んでいる。
具体的には、新型コロナ関連融資の利用先へのアプローチを進め、資金繰りの相談と事業そのものをサポートする本業支援に取り組んでいる。返済据え置き期間中に経営改善意欲があっても改善が十分でなかったお取引先には、借換えを積極的に提案し、資金繰りを確保して改善を後押しした。事業そのものをお手伝いする本業支援では、営業店と本部(課題推進部と金融支援部)が協働し、外部支援機関や外部専門家の協力をいただき、お取引先をしっかり支えた。
創業支援にも力を入れており、地域の活力を促す事業に果敢にチャレンジし、他の範となる創業間もない事業者さまを表彰する「旭川しんきん創業アワード」は昨年、7回目を迎えた。表彰された企業の業種は、クラフトジン製造、保育園運営、コワーキングカフェ運営、フェムケアサロン運営と様々だ。また、各種商談会や展示会の情報を提供し、商談や展示会への出展とそのフォローを行っている。新たな試みとして、地元・上川地区の食の銘品を扱う自動販売機を稼働させた。地場の野菜や乳製品を使ったピザやブランド肉などをそろえ、ご当地グルメの魅力を発信することで、飲食事業者や生産者の販路拡大のほか、自販機での購入をきっかけにした上川地区への来訪などにつなげたい。
人手不足へのお手伝いとしては、有料職業紹介所「旭川しんきん トライアルワークセンター」を通じて事業者さまの人材確保に取り組んでいる。
信用金庫は“地域の仕事と雇用を守ること”が最も重要な仕事なので、こうした取り組みを手間ひま惜しまず、使命感を持って進めている。
―後継者問題・地域経済が抱える課題について
当地域は人口減少・少子高齢化といった構造的な課題を抱え、今後も厳しい状況が続くと思われる。“地域の仕事と雇用を守る”ために、事業承継は最も重要と言える。
当金庫では円滑な事業承継に向け、お取引先へ呼びかけを行うとともに、事業承継に関する外部の専門家と当金庫職員が協力し、個別のご相談に対応していく。これにより、後継者がいないために継続を断念し廃業する事業所を少しでも減らしていく。小さな事業所でも、従業員やその家族を含めると、その元で多くの人たちが生活している。そうした事業所を守り、育てることは信用金庫の大切な役目だ。
―目指す方向性について
基本は何も変わらない。これまでも、そしてこれからも「お客さまの幸せを実現し地元を元気にする」ために、地域で最も信頼され、地域にとってなくてはならない金融機関を目指すことに変わりはない。そのためには、地域、お客さま、そして何より、働く職員にとってより良い信用金庫でなければならないと思っている。信用金庫の仕事の面白さは、地域にどっぷり浸かり、お客さまの悩みを解決することだ。金融機能を使ってもらい、お客さまの商売に良くなってもらい、そこに雇用が生まれ、働く人が豊かになる。そのためのお手伝いをするということは、絶対変わらない。働く職員にもっともっと伝えていきたい。
キャッシュレスの普及拡大による決済機能の多様化、デフレ脱却へ向けた金融の異次元緩和、カーボンニュートラルをはじめとするSDGsの浸透など、この10年間で経営環境はこれまでにないスピードで変化している。そうしたなかで、地域を支える当金庫が、未来永劫在り続けるためには、高い収益性と健全性を確保するのと同時に、役職員一人ひとりの成長が欠かせない。今後、AIが進化、普及し、仕事の進め方が大きく変化するだろう。
しかし、信用金庫の本来の強みである「Face to Face」は不変だ。お客さまの気持ちにしっかり寄り添える職員がたくさん育ち、お客さまのお役に立つことに「喜び」を感じ、「働きがい」を実感できる、そんな信用金庫を目指す。
2024/05/27
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